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千葉地方裁判所 平成9年(ワ)2402号 判決 1998年9月01日

原告

有限会社ワイズマン企画

右代表者代表取締役

鈴木偉央

右訴訟代理人弁護士

向井弘次

被告

エイアイユーインシュアランスカンパニー(エイアイユー保険会社)

右代表者代表取締役

トーマス・アール・テイジオ

右日本における代表者

吉村文吾

右訴訟代理人弁護士

植竹和弘

主文

一  被告は原告に対し、金六一七万七〇一三円及びこれに対する平成九年一二月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は原告に対し、金一八二〇万円及びこれに対する平成九年一二月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  仮執行宣言

第二  事案の概要

一  明らかに認められる事実等

1  当事者等

(一) 原告は、飲食店の経営を主たる業務とする有限会社であり、平成八年二月九日まで千葉市中央区生実町二五一三番地一において、店舗を賃借した上、「ミスターワイズマン」の名称で飲食店(以下「本件店舗」という。)を経営していた。

(二) 被告は、損害保険の引受を主たる業務とする保険会社である。

2  本件保険契約

原告と被告は、平成七年一〇月一三日、原告を契約者、被告を保険者とする以下内容の保険契約を締結した(以下「本件保険契約」という。)。

(一) 保険の種類 店舗休業保険

(二) 保険期間 平成七年一一月一一日午後四時〜平成八年一一月一一日午後四時

(三) 被保険者 原告

(四) 保険の目的施設の所在地

千葉市中央区生実町二五一三番地一

(五) 保険金額 休業一日につき金一〇万円

保険金額に休業日数を乗じて得た額(約款五条一項一号本文)

ただし、復旧期間内の売上減少高に支払限度率を乗じて得た額から復旧期間内に支払を免れた経常費等の費用を差し引いた残額を限度とする(約款五条一項一号ただし書)。

(六) 用語の定義

(1) 復旧期間 保険金支払の対象となる期間であって、保険の目的が損害を受けた時から、それを遅滞なく復旧した時までに要した期間をいう。ただし、保険の目的を損害発生直前の状態に復旧するために通常要すると認められる期間を超えないものとし、かつ、いかなる場合も、保険証券に記載された約定復旧期間を超えないものとする(約款四条一号)。

(2) 粗利益 売上高から商品仕入高及び原材料費(期首棚卸高を加え、期末棚卸高を差し引く。)を差し引いた残高

(3) 経常費 事故の有無にかかわらず営業を継続するために支出する費用

(4) 支払限度率 最近の会計年度(一か年間)の粗利益の額にその一〇%を加算して得た額の同期間内の売上高に対する割合

(5) 売上減少額 事故直前一二か月のうち、復旧期間に応当する期間の売上高から復旧期間内の売上高を差し引いた残額

(七) 約定期間 六か月

3  本件保険契約の目的施設である本件店舗は、平成八年二月一〇日、火災により全焼した(以下「本件火災」という。)。

二  原告の主張

1  本件店舗は、原告が賃借中であったところ、本件店舗の所有者は、本件火災により全焼した建物を再度建築して賃貸する意思はなく、原告は、やむなく本件店舗に代わる同一規模の賃貸店舗を不動産業者あるいは知人を通して探し始めた。

2  しかしながら、本件保険契約に定める約定期間である六か月(平成八年二月一〇日から同年八月九日)の間に代替店舗を見つけ出すことができず、右一八二日間について本件店舗の完全休業を余儀なくされた。

3  原告は、平成九年三月二七日に至り、本件店舗の代替店舗を、千葉県印旛郡富里町日吉台一番一号所在の「ダイエー成田店」内に見いだし、その賃貸借契約を完了した。

4  よって、原告は被告に対し、本件保険契約に基づき、日額一〇万円の一八二日間の店舗休業保険金一八二〇万円の支払を求める。

三  被告の主張

1  原告の主張及び後記原告の反論は争う。

2  原告は、約款五条一項一号本文に基づき、保険金額一日一〇万円に休業日数一八二日を乗じて得られた一八二〇万円の請求をしているが、支払、保険金額は、同号ただし書により上限が画されており、そこで定められている復旧期間についても、約款四条一項ただし書により、「保険の目的を損害発生直前の状態に復旧するために『通常要すると認められる期間』を超えないもの」とされている。ここにいう「損害発生直前の状態に復旧するために通常要すると認められる期間」とは、保険の目的である本件店舗と同一の建物を建築するための期間というべきである。その期間としては、九〇日で十分である。

原告が主張する「本件店舗の所有者が全焼した建物を再度建築して賃貸する意思がない」とか、「本件店舗に代わる同一規模の賃貸店舗を探したものの、代替店舗を見いだすことができなかった」という事情は、前記約款に定められた「損害発生直前の状態に復旧するために通常要すると認められる期間」とは関係のない特殊事情に過ぎないというべきである。

3  原告の損害を約款五条一項一号ただし書に基づいて、支払保険金額を計算すると、別紙計算書記載のとおり、三一八万一五七三円になり、被告は原告に対し、この金額を支払う旨を伝えてある。

4  原告は、本件店舗独自の決算を行っておらず、各店舗の決算を集計することができないのであるから、平成七年度の決算書(全店舗を含めたもの)を前提に本件店舗に関する原告の損失を算出することは不合理とはいえない。

四  原告の反論

1  被告の主張は争う。

2  被告は、原告の第一二期(平成七年一月一日〜同年一二月三一日)の決算書から原告の損害額を算出している。

しかし、原告が設営する店舗は、右決算期に相応する期間だけでも五店舗が存する。また、平成七年一二月から開店した店舗もあるなど各店舗によってその利益率や経費率が異なっている。このように各店舗の個別の利益率や経費率を無視して全店舗の支払限度額や経費率をもとに、保険金額を算出することは不合理である。

3  損害発生直前の状態に復旧するために通常要すると認められる期間について、仮に被告の見解を採用すると、本件店舗が鉄筋コンクリートである場合には、被告の見解は完全に破綻を来すことになり、明らかに不合理である。

なお、「本件店舗の所有者が全焼した建物を再度建築して賃貸する意思がない」とか、「本件店舗に代わる同一規模の賃貸店舗を探したものの、代替店舗を見いだすことができなかった」という事情は通常予想される事情であって、特殊事情とはいえない。

五  主要な争点

1  被告による原告の損害額算出方法の合理性

2  損害期間は何日と見るべきか。

第三  当裁判所の判断

一  事実認定等

1  前記明らかに認められる事実等、証拠(甲一の1〜2、二〜七、乙一〜四)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、平成八年二月九日まで千葉市中央区生実町二五一三番地一において、本店店舗を賃借した上、「ミスターワイズマン」の名称で飲食店を経営していた。

(二) 原告と被告は、平成七年一〇月一三日、原告を契約者、被告を保険者、保険目的施設を本件店舗とする以下内容の本件保険契約を締結した。

①本件保険契約の保険金額は、休業一日につき金一〇万円であり、保険金額に休業日数を乗じて得た額(約款五条一項一号本文)である。②ただし、保険金額は、復旧期間内の売上減少高に支払限度率を乗じて得た額から復旧期間内に支払を免れた経常費等の費用を差し引いた残額を限度とされる(約款五条一項一号ただし書)。③復旧期間とは、保険金支払の対象となる期間であって、保険の目的が損害を受けた時から、それを遅滞なく復旧した時までに要した期間をいう。ただし、保険の目的を損害発生直前の状態に復旧するために通常要すると認められる期間を超えないものとし、かつ、いかなる場合も、保険証券に記載された約定復旧期間を超えないものとする(約款四条一号)。そして、本件保険契約の約定期間は六か月と定められた。

(三) 本件保険契約の目的施設である本件店舗は、平成八年二月一〇日、火災により全焼した(本件火災)。

(四) 本件店舗の所有者は、本件火災により全焼した建物を再度建築して賃貸する意思はなく、原告は、本件店舗に代わる同一規模の賃貸店舗を不動産業者あるいは知人を通して探し始め、千葉市内にあるダイエーの店舗内や東金市内の店舗を打診した。

しかし、右打診はいずれも成約にまで至らず、原告は、本件保険契約に定める約定期間である六か月(平成八年二月一〇日〜同年八月九日)の間に代替店舗を見つけ出すことができず、右一八二日間について本件店舗の完全休業を余儀なくされた。

(五) 原告は、平成九年三月二七日に至り、本件店舗の代替店舗を、千葉県印旛郡富里町日吉台一番一号所在の「ダイエー成田店」内に見いだし、その賃貸借契約を完了した。

(六) 本件店舗と同様の店舗を建築するまでの通常の工程は九〇日である。

2  以上の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

二  法的評価等

1 原告は、「本件保険契約の保険金額は、休業一日につき一〇万円であるから、一日当たり、一〇万円の損害である。」旨主張する。

しかし、本件保険契約の約款五条一項一号ただし書によれば、「復旧期間内の売上減少高に支払限度率を乗じて得た額から復旧期間内に支払を免れた経常費等の費用を差し引いた残額を限度とする。」旨規定されているのであり、一〇万円は支払上限額と認められる。原告の前記主張は採用しない。

よって、復旧期間内の売上減少額、支払限度率、支払を免れた経費等の費用を算出する必要がある。

2 被告は、「約款四条一項ただし書所定の『損害発生直前の状態に復旧するために通常要すると認められる期間』とは、保険の目的である本件店舗と同一の建物を建築するための期間というべきであり、その期間としては、九〇日で十分である。」と主張する。

しかし、実際には、諸々の事情(賃貸人の事情、請負人側の事情、建築条件の制約等)から、本件店舗と同一の建物を九〇日で建築できないケースの方が多いものと認められ、被告の解釈は狭きに失する(また、仮に、賃貸物件が鉄筋建物の場合には被告も別の解釈をするものと考えられ、被告の見解は、原告の主張が示唆するように一貫性に欠けるものである。)。

本件店舗は、もともと不特定多数の顧客を相手にする飲食店であり、立地条件、顧客の流れ等を総合して慎重に検討する必要があり、代替店舗再開までの期間を六か月と解しても不合理であるとはいえないし、現に、前記認定事実によれば、六か月以上の期間を要してようやく代替店舗を開店している。

よって、本件の場合、損害発生直前の状態に復旧するために通常要すると認められる期間とは、六か月と解するべきである。

3  原告の損害

前記証拠(特に乙三、四)によれば、原告の損害は以下のとおりである。

(一) 通常要する実復旧期間 一八二日(六か月)

(二) 復旧期間内の実休業日数一八二日(年中無休)

(三) 休業日数割合 一〇〇%

(四) 復旧期間内の売上高 〇円

(五) 事故がないと仮定した場合の復旧期間内の売上高

九二〇万七九五六円

(算出方法)

平成七年二月一〇日〜同年八月九日までの売上実績

(1) 平成七年二月

九八万四六四五円(一三七万八五〇三円×二〇÷二八)

(2) 平成七年三月

一七一万七八三三円

(3) 平成七年四月

一五七万三八九一円

(4) 平成七年五月

一五二万一〇五〇円

(5) 平成七年六月

一三七万七七〇九円

(6) 平成七年七月

一五二万三四四八円

(7) 平成七年八月

五〇万九三八〇円(一七五万四五三三円×九÷三一)

以上の合計 九二〇万七九五六円

(六) 売上減少額

九二〇万七九五六円

(七) 支払限度率 77.17%

(算出方法)

(1) 7650万1520円(売上総利益6954万6836円×1.1)

(2) 九九一三万〇四〇八円(直近の会計年度・平成七年一年分の売上高)

(3) 7650万1520円÷9913万0408円=0.7717

(八) 支払を免れた経費等の費用

九二万八七六六円

(算出方法)

(1) 平成七年の原告の経常費は一〇四六万四二四三円

(2) 生実店の売上実績構成比率 17.8%

(3) 休業日数 一八二日

(4) 計算

1046万4243円×17.8%×182÷365=92万8766円

(九) 支払保険金額

六一七万七〇一三円

(920万7966円×77.17%−92万8766円=617万7013円)

4  そうすると、原告の被告に対する本件請求は、本件保険金六一七万七〇一三円及びこれに対する支払期日以後で訴状送達日の翌日である平成九年一二月一七日から支払済みまで商法所定の年六分の割合による商事遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がないことになる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官小宮山茂樹)

別紙計算書<省略>

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